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第二場 夏の夜の街(引返)
<ruby>第<rt>だい</rt></ruby>二<ruby>場<rt>ば</rt></ruby><ruby>夏<rt>なつ</rt></ruby>の<ruby>夜<rt>よ</rt></ruby>の<ruby>街<rt>まち</rt></ruby>(<ruby>引返<rt>ひきかえし</rt></ruby>)
だい2ば なつの よの まち (ひきかえし
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
第三場 冬の夜の街
<ruby>第<rt>だい</rt></ruby>三<ruby>場<rt>ば</rt></ruby><ruby>冬<rt>ふゆ</rt></ruby>の<ruby>夜<rt>よ</rt></ruby>の<ruby>街<rt>まち</rt></ruby>
) だい3ば ふゆの よの まち
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
〔大詰〕第一場 柳橋水熊横丁
〔<ruby>大詰<rt>おおづめ</rt></ruby>〕<ruby>第<rt>だい</rt></ruby>一<ruby>場<rt>ば</rt></ruby><ruby>柳橋<rt>やなぎばし</rt></ruby><ruby>水熊<rt>みずくま</rt></ruby><ruby>横丁<rt>よこちょう</rt></ruby>
」おおづめ「」 だい1ば やなぎばし みずくま よこちょー
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
第二場 おはまの居間
<ruby>第<rt>だい</rt></ruby>二<ruby>場<rt>ば</rt></ruby>おはまの<ruby>居間<rt>いま</rt></ruby>
だい2ば おはまの いま
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
第三場 荒川堤(引返)
<ruby>第<rt>だい</rt></ruby>三<ruby>場<rt>ば</rt></ruby><ruby>荒川堤<rt>あらかわづつみ</rt></ruby>(<ruby>引返<rt>ひきかえし</rt></ruby>)
だい3ば あらかわづつみ (ひきかえし)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
芸者三吉・およつ・魚熊・魚北・帳場与兵衛・通行の男女・唄好きの酔漢・母を迎える男・寄席帰りの母・渡し舟のもの・出入りの頭・駕丁・そのほか。
<ruby>芸者<rt>げいしゃ</rt></ruby><ruby>三吉<rt>さんきち</rt></ruby>・およつ・<ruby>魚熊<rt>うおくま</rt></ruby>・<ruby>魚北<rt>うおきた</rt></ruby>・<ruby>帳場<rt>ちょうば</rt></ruby><ruby>与兵衛<rt>よへえ</rt></ruby>・<ruby>通行<rt>つうこう</rt></ruby>の<ruby>男女<rt>だんじょ</rt></ruby>・<ruby>唄好<rt>うたず</rt></ruby>きの<ruby>酔漢<rt>すいかん</rt></ruby>・<ruby>母<rt>はは</rt></ruby>を<ruby>迎<rt>むか</rt></ruby>える<ruby>男<rt>おとこ</rt></ruby>・<ruby>寄席帰<rt>よせがえ</rt></ruby>りの<ruby>母<rt>はは</rt></ruby>・<ruby>渡<rt>わた</rt></ruby>し<ruby>舟<rt>ぶね</rt></ruby>のもの・<ruby>出入<rt>でい</rt></ruby>りの<ruby>頭<rt>かしら</rt></ruby>・<ruby>駕丁<rt>かごや</rt></ruby>・そのほか。
げいしゃ さんきち・およつ・うおくま・うおきた・ ちょーば よへえ・つーこーの だんじょ・うたずきの すいかん・ははを むかえる おとこ・よせがえりの はは・ わたしぶねの もの・でいりの かしら・かごや・その ほか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
〔序幕〕
〔<ruby>序幕<rt>じょまく</rt></ruby>〕
「じょまく」
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
第一場 金町瓦焼の家(春)
<ruby>第<rt>だい</rt></ruby>一<ruby>場<rt>ば</rt></ruby><ruby>金町<rt>かなまち</rt></ruby><ruby>瓦焼<rt>かわらやき</rt></ruby>の<ruby>家<rt>いえ</rt></ruby>(<ruby>春<rt>はる</rt></ruby>)
だい1ば かなまち かわらやきの いえ (はる)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
江戸川沿岸、南寄りの武州南葛飾郡金町の瓦焼惣兵衛の家。
<ruby>江戸川<rt>えどがわ</rt></ruby><ruby>沿岸<rt>えんがん</rt></ruby>、<ruby>南寄<rt>みなみよ</rt></ruby>りの<ruby>武州<rt>ぶしゅう</rt></ruby><ruby>南<rt>みなみ</rt></ruby><ruby>葛飾郡<rt>かつしかぐん</rt></ruby><ruby>金町<rt>かなまち</rt></ruby>の<ruby>瓦焼<rt>かわらやき</rt></ruby><ruby>惣兵衛<rt>そうべえ</rt></ruby>の<ruby>家<rt>いえ</rt></ruby>。
≪ えどがわ えんがん、 みなみよりの ぶしゅー みなみ かつしかぐん かなまちの かわらやき そーべえの いえ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
嘉永元年の春。
<ruby>嘉永<rt>かえい</rt></ruby><ruby>元年<rt>がんねん</rt></ruby>の<ruby>春<rt>はる</rt></ruby>。
かえい がんねんの はる。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
夕暮れ近くより夜にかけて――。
<ruby>夕暮<rt>ゆうぐ</rt></ruby>れ<ruby>近<rt>ちか</rt></ruby>くより<ruby>夜<rt>よる</rt></ruby>にかけて――。
ゆーぐれ ちかくより よるに かけて --。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
右手寄りに母屋(土間への入口と障子の嵌った縁側付きの座敷)。
<ruby>右手寄<rt>みぎてよ</rt></ruby>りに<ruby>母屋<rt>おもや</rt></ruby>(<ruby>土間<rt>どま</rt></ruby>への<ruby>入口<rt>いりぐち</rt></ruby>と<ruby>障子<rt>しょうじ</rt></ruby>の<ruby>嵌<rt>はま</rt></ruby>った<ruby>縁側付<rt>えんがわつ</rt></ruby>きの<ruby>座敷<rt>ざしき</rt></ruby>)。
みぎてよりに おもや (どまえの いりぐちと しょーじの はまった えんがわつきの ざしき(。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
草葺のがッしりとした建築、中央から左手へかけ瓦焼場、竈が幾つかある。
<ruby>草葺<rt>くさぶき</rt></ruby>のがッしりとした<ruby>建築<rt>けんちく</rt></ruby>、<ruby>中央<rt>ちゅうおう</rt></ruby>から<ruby>左手<rt>ひだりて</rt></ruby>へかけ<ruby>瓦<rt>かわら</rt></ruby><ruby>焼場<rt>やきば</rt></ruby>、<ruby>竈<rt>かまど</rt></ruby>が<ruby>幾<rt>いく</rt></ruby>つかある。
くさぶきの がっしりと した けんちく、 ちゅーおーから ひだりてえ かけ かわら やきば、 かまどが いくつか ある。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
その奥は低き垣、外は立木のある往来。
その<ruby>奥<rt>おく</rt></ruby>は<ruby>低<rt>ひく</rt></ruby>き<ruby>垣<rt>かき</rt></ruby>、<ruby>外<rt>そと</rt></ruby>は<ruby>立木<rt>たちき</rt></ruby>のある<ruby>往来<rt>おうらい</rt></ruby>。
その おくわ ひくき かき、 そとわ たちきの ある おーらい ≪
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい (惣兵衛の妹。
おぬい(<ruby>惣兵衛<rt>そうべえ</rt></ruby>の<ruby>妹<rt>いもうと</rt></ruby>。
おぬい (そーべえの いもーと。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
餌を拾う鶏を小舎へ追い込む振りをして、それとなく外を見張っている)
<ruby>餌<rt>えさ</rt></ruby>を<ruby>拾<rt>ひろ</rt></ruby>う<ruby>鶏<rt>にわとり</rt></ruby>を<ruby>小舎<rt>こや</rt></ruby>へ<ruby>追<rt>お</rt></ruby>い<ruby>込<rt>こ</rt></ruby>む<ruby>振<rt>ふ</rt></ruby>りをして、それとなく<ruby>外<rt>そと</rt></ruby>を<ruby>見張<rt>みは</rt></ruby>っている)
えさを ひろう にわとりを こやえ おいこむ ふりを して、 それとなく そとを みはって いる)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
子供 (数人、隠れん坊をして、往きつ来つして遊んでいる)
<ruby>子供<rt>こども</rt></ruby>(<ruby>数人<rt>すうにん</rt></ruby>、<ruby>隠<rt>かく</rt></ruby>れん<ruby>坊<rt>ぼう</rt></ruby>をして、<ruby>往<rt>ゆ</rt></ruby>きつ<ruby>来<rt>き</rt></ruby>つして<ruby>遊<rt>あそ</rt></ruby>んでいる)
こども (すーにん、 かくれんぼーを して、 ゆきつ きつ して あそんで いる) ≪
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
旅姿の下総の博徒突き膝の喜八と宮の七五郎、往来へきて立ちどまる。
<ruby>旅姿<rt>たびすがた</rt></ruby>の<ruby>下総<rt>しもうさ</rt></ruby>の<ruby>博徒<rt>ばくと</rt></ruby><ruby>突<rt>つ</rt></ruby>き<ruby>膝<rt>ひざ</rt></ruby>の<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby>と<ruby>宮<rt>みや</rt></ruby>の<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>、<ruby>往来<rt>おうらい</rt></ruby>へきて<ruby>立<rt>た</rt></ruby>ちどまる。
たびすがたの しもーさの ばくと つきひざの きはちと みやの しちごろー、 おーらいえ きて たちどまる ≪
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 (子供の一人を手招ぎして、何か訊く)
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby>(<ruby>子供<rt>こども</rt></ruby>の<ruby>一人<rt>ひとり</rt></ruby>を<ruby>手招<rt>てまね</rt></ruby>ぎして、<ruby>何<rt>なに</rt></ruby>か<ruby>訊<rt>き</rt></ruby>く)
きはち (こどもの ひとりを てまねぎ して、 なにか きく)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
子供 (知らないと頭を振る。
<ruby>子供<rt>こども</rt></ruby>(<ruby>知<rt>し</rt></ruby>らないと<ruby>頭<rt>あたま</rt></ruby>を<ruby>振<rt>ふ</rt></ruby>る。
こども (しらないと あたまを ふる。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
他の子供は喜八、七五郎を不思議そうに、たかッて見ている)
<ruby>他<rt>ほか</rt></ruby>の<ruby>子供<rt>こども</rt></ruby>は<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby>、<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>を<ruby>不思議<rt>ふしぎ</rt></ruby>そうに、たかッて<ruby>見<rt>み</rt></ruby>ている)
ほかの こどもわ きはち、 しちごろーを ふしぎそーに、 たかって みて いる)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 何ッ知らねえ。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby><ruby>何<rt>なに</rt></ruby>ッ<ruby>知<rt>し</rt></ruby>らねえ。
しちごろー なにっ しらねえ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
そんな事があるもんか。
そんな<ruby>事<rt>こと</rt></ruby>があるもんか。
そんな ことが ある もんか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 七、またお株が始まった。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby><ruby>七<rt>しち</rt></ruby>、またお<ruby>株<rt>かぶ</rt></ruby>が<ruby>始<rt>はじ</rt></ruby>まった。
きはち しち、 また おかぶが はじまった。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
ここは下総とは川一つ国が違うぜ。
ここは<ruby>下総<rt>しもうさ</rt></ruby>とは<ruby>川<rt>かわ</rt></ruby><ruby>一<rt>ひと</rt></ruby>つ<ruby>国<rt>くに</rt></ruby>が<ruby>違<rt>ちが</rt></ruby>うぜ。
ここわ しもーさとわ かわ ひとつ くにが ちがうぜ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
旅先だぜ。
<ruby>旅先<rt>たびさき</rt></ruby>だぜ。
たびさきだぜ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 だってお前。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>だってお<ruby>前<rt>めえ</rt></ruby>。
しちごろー だって おめえ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
同じ村の餓鬼共のくせに知らねえ奴があるもんか。
<ruby>同<rt>おな</rt></ruby>じ<ruby>村<rt>むら</rt></ruby>の<ruby>餓鬼共<rt>がきども</rt></ruby>のくせに<ruby>知<rt>し</rt></ruby>らねえ<ruby>奴<rt>やつ</rt></ruby>があるもんか。
おなじ むらの がきどもの くせに しらねえ やつが ある もんか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
子供 (怖れて、一人逃げ二人逃げ、一緒にどッと逃げて行く)
<ruby>子供<rt>こども</rt></ruby>(<ruby>怖<rt>おそ</rt></ruby>れて、<ruby>一人<rt>ひとり</rt></ruby><ruby>逃<rt>に</rt></ruby>げ<ruby>二人<rt>ふたり</rt></ruby><ruby>逃<rt>に</rt></ruby>げ、<ruby>一緒<rt>いっしょ</rt></ruby>にどッと<ruby>逃<rt>に</rt></ruby>げて<ruby>行<rt>い</rt></ruby>く)
こども (おそれて、 ひとり にげ ふたり にげ、 いっしょに どっと にげて いく)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 それ見ろい。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby>それ<ruby>見<rt>み</rt></ruby>ろい。
きはち それ みろい。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
子供達が怖がって、みんな逃げて行ってしまった。
<ruby>子供達<rt>こどもたち</rt></ruby>が<ruby>怖<rt>こわ</rt></ruby>がって、みんな<ruby>逃<rt>に</rt></ruby>げて<ruby>行<rt>い</rt></ruby>ってしまった。
こどもたちが こわがって、 みんな にげて いって しまった。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 逃げて行ってもいいじゃねえか。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby><ruby>逃<rt>に</rt></ruby>げて<ruby>行<rt>い</rt></ruby>ってもいいじゃねえか。
しちごろー にげて いっても いいじゃ ねえか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
尋ねる家はここなんだ。
<ruby>尋<rt>たず</rt></ruby>ねる<ruby>家<rt>うち</rt></ruby>はここなんだ。
たずねる うちわ ここなんだ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい (そっと母屋の方へ行きかける)
おぬい(そっと<ruby>母屋<rt>おもや</rt></ruby>の<ruby>方<rt>ほう</rt></ruby>へ<ruby>行<rt>い</rt></ruby>きかける)
おぬい (そっと おもやの ほーえ いきかける)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 おお、娘さん。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>おお、<ruby>娘<rt>むすめ</rt></ruby>さん。
しちごろー おお、 むすめさん。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
(仕方なしに立ちどまる)
(<ruby>仕方<rt>しかた</rt></ruby>なしに<ruby>立<rt>た</rt></ruby>ちどまる)
(しかた なしに たちどまる)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 金町の瓦屋さんで、惣兵衛さんは此方だね。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby><ruby>金町<rt>かなまち</rt></ruby>の<ruby>瓦屋<rt>かわらや</rt></ruby>さんで、<ruby>惣兵衛<rt>そうべえ</rt></ruby>さんは<ruby>此方<rt>こちら</rt></ruby>だね。
きはち かなまちの かわらやさんで、 そーべえ さんわ こちらだね。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
惣兵衛さんにお目にかかりたい。
<ruby>惣兵衛<rt>そうべえ</rt></ruby>さんにお<ruby>目<rt>め</rt></ruby>にかかりたい。
そーべえ さんに おめに かかりたい。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 惣兵衛というおやじをここへ出せ。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby><ruby>惣兵衛<rt>そうべえ</rt></ruby>というおやじをここへ<ruby>出<rt>だ</rt></ruby>せ。
しちごろー そーべえと いう おやじを ここえ だせ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい 兄さんは講中の方とご一緒に、お伊勢様へ参って居ります。
おぬい<ruby>兄<rt>にい</rt></ruby>さんは<ruby>講中<rt>こうじゅう</rt></ruby>の<ruby>方<rt>かた</rt></ruby>とご<ruby>一緒<rt>いっしょ</rt></ruby>に、お<ruby>伊勢様<rt>いせさま</rt></ruby>へ<ruby>参<rt>まい</rt></ruby>って<ruby>居<rt>お</rt></ruby>ります。
おぬい にいさんわ こーじゅーの かたと ごいっしょに、 おいせさまえ まいって おります。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 留守か。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby><ruby>留守<rt>るす</rt></ruby>か。
きはち るすか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
して家にはだれがいる。
して<ruby>家<rt>うち</rt></ruby>にはだれがいる。
して うちにわ だれが いる。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 お前の他に男はいねえか。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>お<ruby>前<rt>めえ</rt></ruby>の<ruby>他<rt>ほか</rt></ruby>に<ruby>男<rt>おとこ</rt></ruby>はいねえか。
しちごろー おめえの ほかに おとこわ いねえか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい 職人達はきょうは休み、年期の者は行徳へ使いに行きました。
おぬい<ruby>職人達<rt>しょくにんたち</rt></ruby>はきょうは<ruby>休<rt>やす</rt></ruby>み、<ruby>年期<rt>ねんき</rt></ruby>の<ruby>者<rt>もの</rt></ruby>は<ruby>行徳<rt>ぎょうとく</rt></ruby>へ<ruby>使<rt>つか</rt></ruby>いに<ruby>行<rt>い</rt></ruby>きました。
おぬい しょくにんたちわ きょーわ やすみ、 ねんきの ものわ ぎょーとくえ つかいに いきました。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 そんな人の事じゃねえ。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby>そんな<ruby>人<rt>ひと</rt></ruby>の<ruby>事<rt>こと</rt></ruby>じゃねえ。
きはち そんな ひとの ことじゃ ねえ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 半次が帰って来てるか、それを聞いているんだい。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby><ruby>半次<rt>はんじ</rt></ruby>が<ruby>帰<rt>かえ</rt></ruby>って<ruby>来<rt>き</rt></ruby>てるか、それを<ruby>聞<rt>き</rt></ruby>いているんだい。
しちごろー はんじが かえって きてるか、 それを きいて いるんだい。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい 半次兄さんなら居りません。
おぬい<ruby>半次<rt>はんじ</rt></ruby><ruby>兄<rt>にい</rt></ruby>さんなら<ruby>居<rt>お</rt></ruby>りません。
おぬい はんじ にいさんなら おりません。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 白ばッくれるな。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby><ruby>白<rt>しら</rt></ruby>ばッくれるな。
しちごろー しらばっくれるな。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 七。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby><ruby>七<rt>しち</rt></ruby>。
きはち しち。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
相手は綺麗な娘ッ子だ。
<ruby>相手<rt>あいて</rt></ruby>は<ruby>綺麗<rt>きれい</rt></ruby>な<ruby>娘<rt>むすめ</rt></ruby>ッ<ruby>子<rt>こ</rt></ruby>だ。
あいてわ きれいな むすめっこだ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おとなしく云えよう。
おとなしく<ruby>云<rt>い</rt></ruby>えよう。
おとなしく いえよー。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 だって、お前、図々しく、居ねえなんて吐かすからよ。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>だって、お<ruby>前<rt>めえ</rt></ruby>、<ruby>図々<rt>ずうずう</rt></ruby>しく、<ruby>居<rt>い</rt></ruby>ねえなんて<ruby>吐<rt>ぬ</rt></ruby>かすからよ。
しちごろー だって、 おめえ、 ずーずーしく、 いねえなんて ぬかすからよ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 まあいいやな。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby>まあいいやな。
きはち まあ いいやな。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
娘さん。
<ruby>娘<rt>むすめ</rt></ruby>さん。
むすめさん。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
ここに手紙を書いてきた、これを半次に渡してくれ。
ここに<ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>を<ruby>書<rt>か</rt></ruby>いてきた、これを<ruby>半次<rt>はんじ</rt></ruby>に<ruby>渡<rt>わた</rt></ruby>してくれ。
ここに てがみを かいて きた、 これを はんじに わたして くれ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい でも、全く参って居りませんもの。
おぬいでも、<ruby>全<rt>まった</rt></ruby>く<ruby>参<rt>まい</rt></ruby>って<ruby>居<rt>お</rt></ruby>りませんもの。
おぬい でも、 まったく まいって おりませんもの。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 まだあんな事をいってやがる。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>まだあんな<ruby>事<rt>こと</rt></ruby>をいってやがる。
しちごろー まだ あんな ことを いってやがる。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 今は居ねえか知れねえが、今にもここへくる筈だ。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby><ruby>今<rt>いま</rt></ruby>は<ruby>居<rt>い</rt></ruby>ねえか<ruby>知<rt>し</rt></ruby>れねえが、<ruby>今<rt>いま</rt></ruby>にもここへくる<ruby>筈<rt>はず</rt></ruby>だ。
きはち いまわ いねえか しれねえが、 いまにも ここえ くる はずだ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
来たら必ず渡してくれ。
<ruby>来<rt>き</rt></ruby>たら<ruby>必<rt>かなら</rt></ruby>ず<ruby>渡<rt>わた</rt></ruby>してくれ。
きたら かならず わたして くれ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
(手紙をおぬいが受取らぬので垣の中へ抛り込み)七。
(<ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>をおぬいが<ruby>受取<rt>うけと</rt></ruby>らぬので<ruby>垣<rt>かき</rt></ruby>の<ruby>中<rt>なか</rt></ruby>へ<ruby>抛<rt>ほう</rt></ruby>り<ruby>込<rt>こ</rt></ruby>み)<ruby>七<rt>しち</rt></ruby>。
(てがみを おぬいが うけとらぬので かきの なかえ ほーりこみ) しち。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
さあ行こう。
さあ<ruby>行<rt>い</rt></ruby>こう。
さあ いこー。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 (不服らしく)そんな事より踏み込んだ方が、埒が早くあくじゃねえか。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>(<ruby>不服<rt>ふふく</rt></ruby>らしく)そんな<ruby>事<rt>こと</rt></ruby>より<ruby>踏<rt>ふ</rt></ruby>み<ruby>込<rt>こ</rt></ruby>んだ<ruby>方<rt>ほう</rt></ruby>が、<ruby>埒<rt>らち</rt></ruby>が<ruby>早<rt>はや</rt></ruby>くあくじゃねえか。
しちごろー (ふふくらしく) そんな ことより ふみこんだ ほーが、 らちが はやく あくじゃ ねえか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 べら棒め。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby>べら<ruby>棒<rt>ぼう</rt></ruby>め。
きはち べらぼーめ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
俺達も名うての人間。
<ruby>俺達<rt>おれたち</rt></ruby>も<ruby>名<rt>な</rt></ruby>うての<ruby>人間<rt>にんげん</rt></ruby>。
おれたちも なうての にんげん。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
やるなら尋常にやる方が立派でいい。
やるなら<ruby>尋常<rt>じんじょう</rt></ruby>にやる<ruby>方<rt>ほう</rt></ruby>が<ruby>立派<rt>りっぱ</rt></ruby>でいい。
やるなら じんじょーに やる ほーが りっぱで いい。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
七五郎 そりゃ立派にやりていが、手間を食うから俺あ嫌いさ。
<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>そりゃ<ruby>立派<rt>りっぱ</rt></ruby>にやりていが、<ruby>手間<rt>てま</rt></ruby>を<ruby>食<rt>く</rt></ruby>うから<ruby>俺<rt>おれ</rt></ruby>あ<ruby>嫌<rt>きら</rt></ruby>いさ。
しちごろー そりゃ りっぱに やりていが、 てまを くうから おれあ きらいさ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
喜八 来いよ。
<ruby>喜八<rt>きはち</rt></ruby><ruby>来<rt>こ</rt></ruby>いよ。
きはち こいよ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
急ぐ事があるかい、袋の中の鼠じゃねえか。
<ruby>急<rt>いそ</rt></ruby>ぐ<ruby>事<rt>こと</rt></ruby>があるかい、<ruby>袋<rt>ふくろ</rt></ruby>の<ruby>中<rt>なか</rt></ruby>の<ruby>鼠<rt>ねずみ</rt></ruby>じゃねえか。
いそぐ ことが あるかい、 ふくろの なかの ねずみじゃ ねえか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
(七五郎と共に去る)
(<ruby>七五郎<rt>しちごろう</rt></ruby>と<ruby>共<rt>とも</rt></ruby>に<ruby>去<rt>さ</rt></ruby>る)
(しちごろーと ともに さる)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい (二人のうしろ姿を見送り、怖々手紙を拾う)
おぬい(<ruby>二人<rt>ふたり</rt></ruby>のうしろ<ruby>姿<rt>すがた</rt></ruby>を<ruby>見送<rt>みおく</rt></ruby>り、<ruby>怖々<rt>こわごわ</rt></ruby><ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>を<ruby>拾<rt>ひろ</rt></ruby>う)
おぬい (ふたりの うしろ すがたを みおくり、 こわごわ てがみを ひろう) ≪
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
若き博徒、金町の半次郎、人を害して逃亡し、実家へゆうべから来ている。
<ruby>若<rt>わか</rt></ruby>き<ruby>博徒<rt>ばくと</rt></ruby>、<ruby>金町<rt>かなまち</rt></ruby>の<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby>、<ruby>人<rt>ひと</rt></ruby>を<ruby>害<rt>がい</rt></ruby>して<ruby>逃亡<rt>とうぼう</rt></ruby>し、<ruby>実家<rt>じっか</rt></ruby>へゆうべから<ruby>来<rt>き</rt></ruby>ている。
わかき ばくと、 かなまちの はんじろー、 ひとを がいして とーぼー し、 じっかえ ゆーべから きて いる
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい お、兄さん、出ちゃいけないよ。
おぬいお、<ruby>兄<rt>にい</rt></ruby>さん、<ruby>出<rt>で</rt></ruby>ちゃいけないよ。
おぬい お、 にいさん、 でちゃ いけないよ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
半次郎 今の声はだれだ。
<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby><ruby>今<rt>いま</rt></ruby>の<ruby>声<rt>こえ</rt></ruby>はだれだ。
はんじろー いまの こえわ だれだ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
この辺の人らしくなかったが、――その手紙は俺にきたのか。
この<ruby>辺<rt>へん</rt></ruby>の<ruby>人<rt>ひと</rt></ruby>らしくなかったが、――その<ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>は<ruby>俺<rt>おれ</rt></ruby>にきたのか。
このへんの ひとらしく なかったが、 -- その てがみわ おれに きたのか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい 見たことのない男がきて、これを抛り出して行ったのだよ。
おぬい<ruby>見<rt>み</rt></ruby>たことのない<ruby>男<rt>おとこ</rt></ruby>がきて、これを<ruby>抛<rt>ほう</rt></ruby>り<ruby>出<rt>だ</rt></ruby>して<ruby>行<rt>い</rt></ruby>ったのだよ。
おぬい みた ことの ない おとこが きて、 これを ほーりだして いったのだよ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
半次郎 三十過ぎた小粋な男か。
<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby>三十<ruby>過<rt>す</rt></ruby>ぎた<ruby>小粋<rt>こいき</rt></ruby>な<ruby>男<rt>おとこ</rt></ruby>か。
はんじろー 30 すぎた こいきな おとこか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
そんならゆうべ話をした兄弟分の番場の哥児だ。
そんならゆうべ<ruby>話<rt>はなし</rt></ruby>をした<ruby>兄弟分<rt>きょうだいぶん</rt></ruby>の<ruby>番場<rt>ばんば</rt></ruby>の<ruby>哥児<rt>あにい</rt></ruby>だ。
そんなら ゆーべ はなしを した きょーだいぶんの ばんばの あにいだ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
どれ、それを見せてくれ。
どれ、それを<ruby>見<rt>み</rt></ruby>せてくれ。
どれ、 それを みせて くれ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい そんな人ではなかったよ。
おぬいそんな<ruby>人<rt>ひと</rt></ruby>ではなかったよ。
おぬい そんな ひとでわ なかったよ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
二人連れの厭な奴なの。
<ruby>二人連<rt>ふたりづ</rt></ruby>れの<ruby>厭<rt>いや</rt></ruby>な<ruby>奴<rt>やつ</rt></ruby>なの。
ふたりづれの いやな やつなの。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
(手紙を渡す)
(<ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>を<ruby>渡<rt>わた</rt></ruby>す)
(てがみを わたす)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
半次郎 (左り封じの手紙なので、はッとなる)
<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby>(<ruby>左<rt>ひだ</rt></ruby>り<ruby>封<rt>ふう</rt></ruby>じの<ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>なので、はッとなる)
はんじろー (ひだり ふーじの てがみなので、 はっと なる)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい どうしたの兄さん。
おぬいどうしたの<ruby>兄<rt>にい</rt></ruby>さん。
おぬい どー したの にいさん。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
半次郎 何。
<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby><ruby>何<rt>なに</rt></ruby>。
はんじろー なに。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
(手紙を披かずにいる)
(<ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>を<ruby>披<rt>ひら</rt></ruby>かずにいる)
(てがみを ひらかずに いる)
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
兄さんは字が読めなかったねえ。
<ruby>兄<rt>にい</rt></ruby>さんは<ruby>字<rt>じ</rt></ruby>が<ruby>読<rt>よ</rt></ruby>めなかったねえ。
にいさんわ じが よめなかったねえ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
それでそんな顔したのかい。
それでそんな<ruby>顔<rt>かお</rt></ruby>したのかい。
それで そんな かお したのかい。
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あたしが読んであげようか。
あたしが<ruby>読<rt>よ</rt></ruby>んであげようか。
あたしが よんで あげよーか。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
半次郎 なあに、それには及ばねえ。
<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby>なあに、それには<ruby>及<rt>およ</rt></ruby>ばねえ。
はんじろー なあに、 それにわ およばねえ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
用は大抵知れている。
<ruby>用<rt>よう</rt></ruby>は<ruby>大抵<rt>たいてい</rt></ruby><ruby>知<rt>し</rt></ruby>れている。
よーわ たいてい しれて いる。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい でも、変な人が置いて行った手紙だもの、気になるから見せておくれ。
おぬいでも、<ruby>変<rt>へん</rt></ruby>な<ruby>人<rt>ひと</rt></ruby>が<ruby>置<rt>お</rt></ruby>いて<ruby>行<rt>い</rt></ruby>った<ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>だもの、<ruby>気<rt>き</rt></ruby>になるから<ruby>見<rt>み</rt></ruby>せておくれ。
おぬい でも、 へんな ひとが おいて いった てがみだもの、 きに なるから みせて おくれ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
兄さんが持っていたって、何と書いてあるか判りやしまい。
<ruby>兄<rt>にい</rt></ruby>さんが<ruby>持<rt>も</rt></ruby>っていたって、<ruby>何<rt>なん</rt></ruby>と<ruby>書<rt>か</rt></ruby>いてあるか<ruby>判<rt>わか</rt></ruby>りやしまい。
にいさんが もって いたって、 なんと かいて あるか わかりや しまい。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
半次郎 お袋はどこへ行った。
<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby>お<ruby>袋<rt>ふくろ</rt></ruby>はどこへ<ruby>行<rt>い</rt></ruby>った。
はんじろー おふくろわ どこえ いった。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい おッかさんは帝釈様へ。
おぬいおッかさんは<ruby>帝釈様<rt>たいしゃくさま</rt></ruby>へ。
おぬい おっかさんわ たいしゃくさまえ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
もう帰ってくる時分だよ。
もう<ruby>帰<rt>かえ</rt></ruby>ってくる<ruby>時分<rt>じぶん</rt></ruby>だよ。
もー かえって くる じぶんだよ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
兄さん今の手紙をお出しよ。
<ruby>兄<rt>にい</rt></ruby>さん<ruby>今<rt>いま</rt></ruby>の<ruby>手紙<rt>てがみ</rt></ruby>をお<ruby>出<rt>だ</rt></ruby>しよ。
にいさん いまの てがみを おだしよ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
半次郎 お前なんか見るものじゃねえ。
<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby>お<ruby>前<rt>めえ</rt></ruby>なんか<ruby>見<rt>み</rt></ruby>るものじゃねえ。
はんじろー おめえなんか みる ものじゃ ねえ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
おぬい お出しというのに兄さん。
おぬいお<ruby>出<rt>だ</rt></ruby>しというのに<ruby>兄<rt>にい</rt></ruby>さん。
おぬい おだしと いうのに にいさん。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
半次郎 何。
<ruby>半次郎<rt>はんじろう</rt></ruby><ruby>何<rt>なに</rt></ruby>。
はんじろー なに。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt
何をするんだ。
<ruby>何<rt>なに</rt></ruby>をするんだ。
なにを するんだ。
長谷川伸/瞼の母/mabutano.txt

Derived from 青空文庫及びサピエの点字データから作成した振り仮名のデータセット(GitHub) https://github.com/ndl-lab/huriganacorpus-aozora

Certain mismatches in the original corpus were eliminated during validation (307 instances)

Error: 烈しい調子である。 != パンツだったのである。, file: 中島敦/環礁_ミクロネシヤ巡島記抄/kansho.txt
Error: 彼がそれにどれだけ成功するかは、これからの問題だが。 != ――, file: 堀辰雄/聖家族/seikazoku.txt
Error: 「なんだか目の中にゴミがはいっちゃったわ……」 != 「びっくりしたじゃないの……」, file: 堀辰雄/聖家族/seikazoku.txt
Error: それは斯波という男の声であった。 != ……, file: 堀辰雄/聖家族/seikazoku.txt
Error: が、すぐ、斯波は、例のこわれたギタアのような声で、彼女に向って言いだした。 != 「あら、そうですの」, file: 堀辰雄/聖家族/seikazoku.txt
Error: 夫人は目の前の扁理のだらしのない様子から、ふと、九鬼の告別式の日に途中で彼に出会った時のことを思い出し、それからそれへと様々なことが考えられてならないのだが、彼女はそれから出来るだけ心をそらそうとして、一そう丹念に自分の指を動かしていた。 != 「ながくですの?」, file: 堀辰雄/聖家族/seikazoku.txt
Error: 「まだはっきり決めてないんですが……」 != 「さあ……」, file: 堀辰雄/聖家族/seikazoku.txt
Error: 一つの少女の顔。 != 「……だが、もうどうでもいいんだ……」, file: 堀辰雄/聖家族/seikazoku.txt
Error: それに、あの人は始終自分の貧乏なことを気にしていたようだけれど……(そんな考えがさっと少女の頬を赤らめた)……それで、あの人は私のお母さんに誘惑者のように思われたくなかったのかも知れない。 != 「はいってもよくって?」, file: 堀辰雄/聖家族/seikazoku.txt
Error: こんな風にあの人を遠ざからせてしまったのはお母さんだって悪いんだ。 != 「いいわ」, file: 堀辰雄/聖家族/seikazoku.txt
Error: 夫人は溜息をしずかに洩らした。 != ――, file: 堀辰雄/聖家族/seikazoku.txt
Error: ―― != 「そうかしら……」, file: 堀辰雄/聖家族/seikazoku.txt
Error: 「なあんだ、君だったの?」 != 「おわかりになりませんでしたこと?」, file: 堀辰雄/麦藁帽子/mugiwara.txt
Error: そのおかげで、空にそれとよく似た雲がうかんでいる時は、それもまた、私たちの空にうつる影ではないかとさえ思えてくる。 != ……, file: 堀辰雄/麦藁帽子/mugiwara.txt
Error: それから私は郵便局で、私の母へ宛てて電報を打った。 != 「ボンボンオクレ」, file: 堀辰雄/麦藁帽子/mugiwara.txt
Error: 皆のしんがりになって、家の方へ引きあげて行きながら。 != ……, file: 堀辰雄/麦藁帽子/mugiwara.txt
Error: そうして私は私の母から隠れるようにばかりしていたから。 != ……, file: 堀辰雄/麦藁帽子/mugiwara.txt
Error: そして彼女はそれを人工培養した。 != ……, file: 堀辰雄/麦藁帽子/mugiwara.txt
Error: 私はそのかすかな日の匂いに、いつかの麦藁帽子の匂いを思い出した。 != 「どうしたんだい?」, file: 堀辰雄/麦藁帽子/mugiwara.txt
Error: 母はそんな私の野心なんかに気づかずに、ただ私の中に蘇った子供らしさの故に、夢中になって私を愛した。 != ――「ボンボンオクレ」, file: 堀辰雄/麦藁帽子/mugiwara.txt
Error: 突然、彼がむせびながら、俯向きになった。 != エピロオグ, file: 堀辰雄/麦藁帽子/mugiwara.txt
Error: 私の母は私の父からはぐれていた。 != ……, file: 堀辰雄/麦藁帽子/mugiwara.txt
Error: 私の母などよりもっと余計に。 != ――, file: 堀辰雄/花を持てる女/hanao.txt
Error: 私は一枚の母の若いころの写真からそんな小説的空想さえもほしいままにしながら、しかしそれ以上に突込んで、そういう母の若いころのことや、自分自身の生い立ちなどについて、人に訊いてまでも、それを強いて知ろうとはしなかった。 != 五, file: 堀辰雄/花を持てる女/hanao.txt
Error: しかし、そのときも私の期待を裏切って、母の若い頃のことは殆んどなんにも話して貰えなかった。 != ……, file: 堀辰雄/花を持てる女/hanao.txt
Error: それから一番末の弟はとうとう自分から好きで落語家になってしまった。 != ……, file: 堀辰雄/花を持てる女/hanao.txt
Error: …… != 六, file: 堀辰雄/花を持てる女/hanao.txt
Error: 私ははじめのうちはその新しい父のことを、「お父うちゃん」とお云いといくら云われても、いつも「ベルのおじちゃん」と呼んでいた。 != ……, file: 堀辰雄/花を持てる女/hanao.txt
Error: 松吉も、その由次郎に目をかけ、殆んど細工場のほうのことは任せ切りにしていた。 != ――, file: 堀辰雄/花を持てる女/hanao.txt
Error: 松吉はさんざん一人で苦しんだ末、何もいわずに、おようを由次郎に添わせてやる決心をした。 != ……, file: 堀辰雄/花を持てる女/hanao.txt
Error: 私の生父は、裁判所などに出ていても、謹厳一方の人ではなかったらしく、三味線の音色を何よりも好んでいたそうである。 != ……, file: 堀辰雄/花を持てる女/hanao.txt
Error: その血すじをひいた生父のことはもうすっかり忘れてしまって、私のことをかわいがっていてくれる新しい父や母やそのほかの人々の間で、何も知らず、ただ無心に、おばさんの三味線に合わせながら「猫じゃ、猫じゃ」を踊っていた、小さな道化ものの自分の姿が、いま思いかえしてみると、自分のことながらなかなかにあわれ深く思えてならない。 != 七, file: 堀辰雄/花を持てる女/hanao.txt
Error: だが、すべてを知ってみると、なんだかお母さんの事がかわいそうでかわいそうでならなくなる。 != ……」, file: 堀辰雄/花を持てる女/hanao.txt
Error: 何んと刻せられているかと思って、私は柵の外から黄楊の木の枝をもちあげながら、見てみたが、脆い石質だとみえて石の面が殆んど磨滅していて、わずかに「……童……」という一字だけが残っているきりだった。 != ――, file: 堀辰雄/花を持てる女/hanao.txt
Error: ―― != ……, file: 堀辰雄/花を持てる女/hanao.txt
Error: その場末の町らしく、低い汚い小家ばかりの立ち並んでいる間を、私はいかにも他郷のものらしい気もちになって歩いているうちに、こんどは一度、私の殆んど覚えていない生父の墓まいりをしてみるのもいいなと思った。 != それだけでいい。, file: 堀辰雄/花を持てる女/hanao.txt
Error: 小さな私は往きのときも、帰りのときも、その道中があんまり長いので、いつも電車の中でひとっきり睡ってしまっていたが、突然母にゆりおこされた。 != ……」, file: 堀辰雄/花を持てる女/hanao.txt
Error: が、電車はもうその横町をあとにして、お屋敷の多い、並木のある道を走っていた。 != ……, file: 堀辰雄/花を持てる女/hanao.txt
Error: なんでもほんとうの妹ごだとか。 != ……, file: 堀辰雄/花を持てる女/hanao.txt
Error: ……そうすればきっと、私達がそれを希おうなどとは思いも及ばなかったようなものまで、私達に与えられるかも知れないのだ。 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: 四月下旬の或る薄曇った朝、停車場まで父に見送られて、私達はあたかも蜜月の旅へでも出かけるように、父の前はさも愉しそうに、山岳地方へ向う汽車の二等室に乗り込んだ。 != ――, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: 「うん、この辺は降らないともかぎらないのだ」 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: 駅の前に待たせてあった、古い、小さな自動車のところまで、私は節子を腕で支えるようにして行った。 != 「そんなでもないわ」, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: あのね……」彼女が私の背後で言い出しかけた。 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: 私はいかにも焦れったいように小さく叫んだ。 != 「もういいんだよ」, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: それはおれ達だったのだ。 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: 私は彼女が眠りながら呼吸を速くしたり弛くしたりする変化を苦しいほどはっきりと感じるのだった。 != 「あなた、そこにいたの?」, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: 「あんまり病人の側にばかり居ないで、少しは散歩くらいなすっていらっしゃらない?」「この暑いのに、散歩なんか出来るもんか。 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: 私はそう独り言のようにつぶやきながら、やっとその窓から離れた。 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: それは少女時代彼女の好きだった、そして今でも好きだと父の思っているようなものばかりらしかった。 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: いつになくくっきりと赭ちゃけた山肌を見せている八ヶ岳などを私が指して示しても、父はそれにはちょっと目を上げるきりで、熱心に話をつづけていた。 != 「いいえ……」, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: ――「そうだ、おれは随分長いことおれの仕事を打棄らかしていたなあ。 != 「なんでもないの。, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: こんなに激しい咳はこれまで一度もしたことはないくらいだつた。 != 「…………」, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: 或る朝、看護婦がやっと病室から日覆を取り除けて、窓の一部を開け放して行った。 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: それより他のことは今のおれには考えられそうもないのだ。 != そうでないと……」, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: すると彼女は思いがけず、ぱっちりと目を見ひらいて、そんな私の方を見上げながら、 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: 彼女が再び快活そうに言った。 != 「ええ」, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: そんな雪雲の消え去ったあとは、一日ぐらいその山々の上方だけが薄白くなっていることがある。 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: そうしておれはいつのまにか好い気になって、お前の事よりも、おれの詰まらない夢なんぞにこんなに時間を潰し出しているのだ……」 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: 「可哀そうな節子……」と私は机にほうり出したノオトをそのまま片づけようともしないで、考え続けていた。 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: ……そうして私は何んでもないのにそんなに怯え切っている私自身を反って子供のように感ぜずにはいられなかった。 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: 壁まですっかり杉皮が張りつめられてあって、天井も何もない程の、思ったよりも粗末な作りだが、悪い感じではなかった。 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: 私は小屋にはいると、すこし濡れた体を乾かしに、再び火の傍に寄って行った。 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: しかもその美しい素木造りの教会は、その雪をかぶった尖った屋根の下から、すでにもう黒ずみかけた壁板すらも見せていた。 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: 「そんな冬でもこの村に信者はあるんですか?」と私は無躾けに訊いた。 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: 小屋の中から、もうさっきから私の帰りを待っていたらしい村の娘が、そう私を食事に呼んだ。 != ……, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: 死者にもたんと仕事はある。 != ……」, file: 堀辰雄/風立ちぬ/kaze.txt
Error: 「熱はないの?」彼が訊いた。 != 「すこしあるらしいんだ」, file: 堀辰雄/燃ゆる頬/moyuru.txt
Error: 「蝋燭はつけておくのかい?」彼が訊いた。 != 「どっちでもいいよ」, file: 堀辰雄/燃ゆる頬/moyuru.txt
Error: 「それかい……」彼は少し顔を赧らめながら云った。 != 「ちょっといじらせない?」, file: 堀辰雄/燃ゆる頬/moyuru.txt
Error: 今度は私が質問する番だった。 != 「ふふふ……」, file: 堀辰雄/燃ゆる頬/moyuru.txt
Error: そして私は其処に、私の少年時の美しい皮膚を、丁度|灌木の枝にひっかかっている蛇の透明な皮のように、惜しげもなく脱いできたような気がしてならなかった。 != が、そんなことはどうでもいい。, file: 堀辰雄/燃ゆる頬/moyuru.txt
Error: 「それは何の花だい?」 != 「これはシャクナゲです」, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: 「ああ、じゃ、あそこかな、あの絵葉書にあった奴は。 != ……」, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: ……ときどき、こんな夕暮れ時に、二人のうちの私のよく覚えている方の神々しいような白髪の老婦人が、このヴェランダの、そう、丁度私の坐っているこの場所に腰を下ろしたまま、彼女のとうに死んでいる友人と話し合ってでもいると言ったような、空虚な眼ざしがまざまざと蘇ってくる……と思うと、一|瞬間それがきらきらと少女の眼ざしのようにかがやく……家の中からは夕餉の支度をしている、もう一方の婦人の立てる皿の音が聞えて来る……彼女はふと十字を切ろうとするように手を動かしかけるが、それはほんの下描きで終ってしまう……彼女にだけは一種の言語をもっていそうな気のする「巨人の椅子」……そんな一方の老嬢のさまざまな姿だけは、私が実際にそれらを見て、そして無意識の裡にそれらを記憶していたのではないかと思えるくらい、まざまざと蘇って来るが、――もう一人の老嬢の方は、いつまでも皿の音ばかりさせていて、容易に私の物語の中には登場して来ようとはしない。 != ……, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: それらの花のまわりには無数の蜜蜂がむらがり、ぶんぶん唸り声を立てていた。 != ……, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: 「あの子は白痴なのかい?」と訊いた。 != 「そうじゃないよ。, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: が、その次の瞬間には、私はその同じ茂みのうちに殆ど二三十ばかりの花と、それと殆ど同数の半ば開きかかった莟とを数えることが出来た。 != ――, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: 毎朝のようにそれに沿うて歩きながら、しかし、よく注意して見ようとはしないでいた野薔薇の白い小さな花が、いつの間にやら殆ど全部|蝕ばまれて、それに黄褐色のきたならしい斑点がどっさり出来てしまっていることに、その朝、私は始めて気がついたのだった。 != ……, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: ――その時|若し私がその少女をもっとよく見たら、それが数日前に私が宿屋の裏の狭い坂道ですれちがった数人の少女たちの中の一人であることに気がついて、私の狼狽はもっと大きかっただろうに。 != ……, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: 「爺やさん、峠の途中に気ちがいの女がいるそうだけれど、それあ本当なのかい?」 != 「そうなのかい?――どうしてまたそんな……」, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: そんな最初の出会の時には、大概の少女たちは、自分が見つめられていると思う者からわざとそっぽを向いて、自分の方ではその者にまったく無関心であることを示したがるものだが、そんな羞恥と高慢さとの入り混った視線とは異って、私の上に置かれているその少女の率直な、好奇心でいっぱいなような視線は、私にはまぶしくってそれから目をそらさずにはいられないほどに感じられたので、私はそのときの彼女――最初に私の目の前に現れたときの彼女に就いては、そのやや真深かにかぶった黄いろい帽子と、その鍔のかげにきらきらと光っていた特徴のある眼ざしとよりほかには、殆んど何も見覚えのない位であった。 != ……, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: ――私は、彼女がしゃがみながら、パレットへ絵具をなすりつけ出すのを見ると、彼女の仕事を妨げることを恐れて、其処に彼女をひとり残したまま、その渓流に沿うた小径をぶらぶら上流の方へと歩いて行った。 != そうしなくっちゃいけない。, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: そうして私は自分の行く手に、真っ白な、小さな橋と、一本の大きな蝙蝠傘のような樅の木を認めだすと、私はすこし歩みを緩めながら、わざと目をつぶった。 != 「いいわ……いつもひとりでするんですから」, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: そしてその二つの花畑を区切って、いつも気持のよいせせらぎの音を立てながら流れているのは、数年前まで、そのずっと上流のところでごとごとと古い水車を廻転させていたところの、あの小さな流れであった。 != ……, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: 私はそんな二軒の花屋の物語を彼女に聞かせながら、その私の大好きな横町へ、彼女の注意を向けさせた。 != ――, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: それからすこし恐いような眼つきをして花畑の一部を見つめだした。 != ……, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: それほどあの頃からすべてが変っていた。 != ……, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: ……私は彼女の仕事の邪魔にならないように、いつものように彼女を其処に一人きり残しながら、再びさっきの土手に出て、やや大きなアカシアの木蔭を選んで、そこに腰を下ろしていた。 != ……, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: ――その日、私が私の「美しい村」の物語の中に描いた、二人の老嬢たちのもと住まっていた、あの見棄てられた、古いヴィラの話を彼女にして聞かせると、それをしきりに見たがったので、私自身はもうそんなものは見たくもなかったのだけれど、その荒れ果てたヴェランダから夕暮れの眺めがいかにも美しかったのを思い出して、夕食後、ともかくもそのヴィラまで登って行ってみることにした。 != ……, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: それはその友人の若い妻君や妹たちであった。 != ……, file: 堀辰雄/美しい村/utsukushii.txt
Error: 「お病気はもういいの?」 != 「ええ、すっかりいいんです」, file: 堀辰雄/ルウベンスの偽画/rubens.txt
Error: 「家へはいりません?」 != 「ええ」, file: 堀辰雄/ルウベンスの偽画/rubens.txt
Error: それから後は浅間山の麓のグリイン・ホテルに着くまで、ずっと夫人の引きしまった指と彼女のふっくらした指をかわるがわる眺めていた。 != ホテルはからっぽだった。, file: 堀辰雄/ルウベンスの偽画/rubens.txt
Error: 「何か見えて?」 != 「それだけだったの?」, file: 堀辰雄/ルウベンスの偽画/rubens.txt
Error: また、やさしい皮肉のようでもあった。 != ……, file: 堀辰雄/ルウベンスの偽画/rubens.txt
Error: 木のテエブルに頬杖をついている彼の頭上では、一匹の鸚鵡が人間の声を真似していた。 != ……, file: 堀辰雄/ルウベンスの偽画/rubens.txt
Error: その瞬間、彼は彼のところからは木の枝に遮ぎられて見えない小径の上を二台の自転車が走って来て、そのロッジの前に停まるのを聞いた。 != 「またかい。, file: 堀辰雄/ルウベンスの偽画/rubens.txt
Error: ロッジのそとへ出ると、二台の自転車がそのハンドルとハンドルとを、腕と腕とのようにからみあわせながら、奇妙な恰好で、そこの草の上に倒れているのを彼は見た。 != たしかにそうだ。, file: 堀辰雄/ルウベンスの偽画/rubens.txt
Error: しかしそれらしい風景はどうしても捜しあてることが出来なかった。 != 「まあ、いいじゃないか。, file: 堀辰雄/ルウベンスの偽画/rubens.txt
Error: 僕は今日東京へ帰るんだよ」 != 「どうしてさ」, file: 堀辰雄/ルウベンスの偽画/rubens.txt
Error: それから彼はペンを取りあげた。 != ロミオはテニスをしているのでしょう, file: 堀辰雄/ルウベンスの偽画/rubens.txt
Error: 「一昨日、いいところを見ちゃったから」 != 「たったそれだけ」だったのだ。, file: 堀辰雄/ルウベンスの偽画/rubens.txt
Error: 「どうも仕方がないんだ。 != それでどうにもならなくなるんだよ」, file: 堀辰雄/ルウベンスの偽画/rubens.txt
Error: ここは風景は上等だが、描きにくくて困るね。 != 「ふん、そんなものかね……」, file: 堀辰雄/ルウベンスの偽画/rubens.txt
Error: 提燈の落ちたこと白い犬になったこと中敷から裸足でおりたこと、裏門を開けたこと丘の上の石のことそれから壮い女のこと、皆順序だって思い出されるが、ただ丘の上から室の中へ帰って来た記憶がない。 != 「もし、もし」, file: 田中貢太郎/岐阜提灯/gifuchochin.txt
Error: 「飲みたいね」 != 「そうか、そいつはありがたいな」, file: 田中貢太郎/岐阜提灯/gifuchochin.txt
Error: 「それじゃ聞くまい、聞いたところで、食客ではなんにもならないから」 != 「そいつはありがたい」, file: 田中貢太郎/岐阜提灯/gifuchochin.txt
Error: 「べつに悪くはありません」 != 「そんなことはありませんよ」, file: 田中貢太郎/岐阜提灯/gifuchochin.txt
Error: 「そんなことはないのですけど、これは、すこし理があって、ちょっとでも抜かれないのですもの」 != 「そんなことはありませんよ」, file: 田中貢太郎/岐阜提灯/gifuchochin.txt
Error: 「往っても好いかね」 != 「すぐですよ、いらっしゃい」, file: 田中貢太郎/岐阜提灯/gifuchochin.txt
Error:  != …………, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 私は感動に胸を締めつけられながら、浅草というものに、――その実体はわからない、漠然としたものだが、浅草というものに、手をさしのべたかった。 != さしのべていた。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 私は泣きたかった。 != うれしいのだ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「帽子の下に頭がある。 != ……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 少くともそんな場合が往々ありはしなかったか。 != ……, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 映画が終った。 != いよいよショウである。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 暖簾に顔を近づけるが早いか、 != 「いらっしゃい」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: すなわち私は脆弱な神経を叩き直すことができなかった。 != *, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: * != そうだ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「いや、ゆんべ、寺島町へちょっと顔出しを……」 != ニヤニヤするのに、, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: すると私の真面目な、いややぼな顔に、 != 「いやですねえ」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「……?」私にはまだわからなかった。 != 「ねむい、ねむい」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: さて私は十三銭のメシを食って、それから二十銭のコーヒーを飲みに行くのだったが、 != (「ボン・ジュール」はマンネリズムだ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: そう言って、もじもじと立っているのに、 != 「まあ、おかけなさい」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ぽんたんの眼に似ている。 != 「……?」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: それはもう大変な騒ぎ」 != 「ふーん」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 言い淀むのに、 != 「なアに」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 瓶口はついに姿を見せなかった。 != ……, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 今回はそこでそうした渋滞を防ぐべく、当時の日記を抜き書きして、それに注を書き加える形で、筋の進展をはかろうと思う。) != *, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「君、彼女らが≪変態≫の男をどう呼んでいるかを知っているかい?……≪インテリ≫と言ってるよ……」(「王道」から) != *, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「ドサ貫と組もうと思っとるんですがね」 != 「ほう」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 但馬大明神に手紙でお伺いを立てているらしいですよ」 != 「なぜとめるんです。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 人間、一度落ちたら、もう浮び上れない、ミーちゃんはそう言うんですな。 != たしかに、それはそうですがね」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「邪恋はよかった。 != ヒェッヘッヘッ……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 午後、浅草に行く。 != *, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ――そして神の与えた声で吠えなければ……」 != *, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: アパートの付近の路地をなんとなくぶらついていて、眼にしたこと。 != ――, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 夢は、その抑えようのないくやしさを具象化していたものと考えられる。 != ところが、である。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: それなり知らん顔をしているのに、 != 「――いますか」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 暗い階段の下から声をかけると、 != 「――おお」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「楽屋へ行くの、僕はよしましょう」 != 「――どうして」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「――どうして」 != 「………」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「………」 != 「そうですか。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「そうですか。 != じゃ……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: (七) != アパートにとまる。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: こっちは何もいやしいことはないから……」 != 「あやしい、だろう?」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「あやしい、だろう?」 != 「ああそうか」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「何か、いい芸名ないでしょうか」 != 「さあ」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: その小屋は、舞台から客の顔が隅から隅まで明瞭に見分けられる狭さのところへもってきて、私は背が高い上にその時高下駄をはいていたので、立っている客の頭の上にヌッと顔が飛び出してしまう始末で、――なかへ入った瞬間、舞台のぽんたんと私と、バッタリ眼が合った。 != 「――や」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ――ドイツ語では、ハムちゅうねん」 != 「あ、なるほど」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「では、フランス語では」 != 「ソーセージやがな」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 最初にボタリとうどん粉を落とした柱の頭に、大きな癌ができてしまった。 != つづいてo――つづいてy――KoyanagiMasako, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 見るに堪えない下手糞なできぐあいだった。 != はがしで、ごちゃごちゃとかためてしまった。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: もう一度、――今度は慎重にやったので、どうにか見られる程度にできた。 != で、それはそのままにして、――(そうだ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: それをば、無慙にも鉄板の上に乗せて焼いているのは、何か丑三詣りに似た呪いの所業でも行なっているような気がし出したのだ。 != (――これは、いかん。), file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 私は、いかんいかんと心の中でつぶやきながら、しかしそのままその変化をみつめていた。 != すると、そこへ、, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 美佐子は立ったまま靴をぬいで、なかに入り、 != 「――あら」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「それ、――倉橋さんが書いたの?」 != 「うん」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 内も外も――。 != そうだ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: だが、この旅に出たいという気持は私のうちにずっと燃えていたものだ。 != そうだ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 現在ではもう、下町の方はよく知らないが、山の手の方では、そうした「おいなアりさーん」とか「カリン、カリン」とか「なべやアき、うどん」とか、――ピュウヒョロヒョロという支那ソバ屋のチャルメラの音さえほとんど聞かれなくなったが、――思えば、稲荷ずしには、そんな懐しい思い出があり、そんな稲荷ずしを口にすると思い出が蘇り、それに子供らしい火事見物の気分からか、私はひどく子供っぽい気持になっていた。 != ……), file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 末弘は唇をチュッと鳴らして、酒を飲んだ。 != 「いつか、おたくにからんだことがあるんですってね。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: そうだ、あの時分、おたくは倉橋さんじゃなくて、高勢さんという名で通ってましたな。 != ありゃ、どういうんで……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「マキ、お代り」と私はねえさんに言った。 != *, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 薬の名を借りてきたんではちょっと駄目かな。 != ……, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 宣伝部に話して、会の費用を出させるようにしてもいいってね。 != ――どうです。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ――どうです。 != やろうじゃないですか」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: いかに、ああ、旅人よ、この青ざめし景色は、青ざめし汝みずからをうつすらん。 != ヴェルレーヌ, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: その楽屋へ行くべく、暗い急な階段を昇って、二階と三階の間の狭い踊り場に行きついたときちょうど、――私の先に行った朝野は、すでに三階に姿を消していたが、――ちょうどそのとき、暗い階段の上にあたかもパッと光が射したみたいに、あれはなんという布地なのか、白い透き通るふわふわとした、それだけでも何やら色っぽく悩ましい衣装、その肩の上には花のようにした襞がつけてあって、脚の前があけてあるその縁にも綺麗な袋が花輪のようにつけてある、そうした衣装の裾をかかげた踊り子の一群が、突然頭上に現われた。 != ショウがはじまるところなのだ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ――楽屋は、踊り子が出払って、がらあきで、楽屋着などが雑然とぬぎすててあるなかに、朝野がひとり泰然自若として坐っていた。 != 「まあ、あがらんですか」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: かくて私はそこの薄穢さに決して眉を寄せることはしなかった。 != といって、なまめかしさにひそかにニヤついたのでもなかった。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「瓶口さん、こう言ったわよ、その会にあたしたちを呼んで、芸者がわりにお酌をさせるんだって、朝野さんが言ってたッて。 != ――いやだわ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「ねえ、先生」 != 「――は」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 正直に言いますが、あっしたち、今が一番大事なところで、――ここでグンと乗り出したいとおもうんで、――それには、どうしても先生方の後援がないと……」 != 「いやア……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: そして、この瓶口は、望みどおり出世したら私の好きでないタイプになるだろうと、そうした見当はついているが、出世前のこう気負い立っている瓶口は、いわば壮大な炎でも見るような快さで決して嫌いではなかった。 != 「おや、おや、ひどいふけだ」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「――人気が出てきたからなア」 != 「ここでぐッと、のしちまわないッと……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「ここでぐッと、のしちまわないッと……」 != 「そうだよ、そうだよ」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: その女の横には、男がいたのであるが、女のその顔のそむけ方で、その男がその女にとってどういう意味のものであるかが明らかにされた。 != そうだ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ――さよう、私は浅草で会った浅草の人間以外の人間のことを、今まで一度も語らなかったが、この機会に話をそれに移そう。 != *, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 歩いていたら、そんな空想を誘われたのだが、浮かぬ顔の眼だけをおもしろそうに輝かせて、店をのぞきのぞき、合羽橋の停留場のさきまで行ったとき、 != 「よオ、これは」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「栄ちゃんは、やめました」 != 「やめた?」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「百合ッぺに追い出されたようなもので……」 != 「ほう」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 栄子は和服だった。 != 「あたしたちも、よくあるじゃないの。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「冗談じゃない。 != わざとかもしれないわ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: あたし、思わず、ごめんなさいと言っちゃったの」 != 「まあ……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「まあ……」 != 「おかしいけど、――わかるでしょう」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 歯を薄情そうにツウと鳴らす。 != 「わかるね」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: そこへ私は再び、 != 「よオ、これは」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ドサ貫で、ちょうど「どじょう飯田」と書いた黒い暖簾をくぐって出てきたところだった。 != 「――よオ」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: つまり前節との間には一月ばかりの時の経過があるわけである。 != ……, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ――この間は」 != とあいさつされた。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: とあいさつされた。 != 「シャンですね。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「この間まで女優さんだったのだ」 != 「なアるほど」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 蛇の道は蛇だと感心した。 != 「ふーん。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 流行の女|剣戟がかかっていて、座の前に、その剣戟女優が太股もあらわに大見得を切っている一種奇矯な看板が出ている。 != 「ミーちゃんのことなんですがね。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「――おや、倉さん」 != 「――おや、ゴロちゃん」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「この頃、僕は銀座に出ないから」 != 「ラララン……。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「――で、今はゴロちゃんと一緒?」 != 「それなんで」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: すさまじく大きな声でそう言って、ゴロちゃんは物をつまみ上げるような手を顔の前にやったかと思うと、 != 「パッ!」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 奇声とともにあたかも手につまんだものを私の顔にぶっかけるみたいに、パッと指を開くのだった。 != 「なんだい。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ふわふわとしたなかにコツンと固いものがある感じだ。 != 「ヘッヘッヘ」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 見ると顔は笑ってない。 != 「……?」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「ねえ倉さん、――あたし、なんかオカしいかしら」 != 「オカしい?」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「いかれてるって言やがんで、僕のことを、みんなして」あたしと言ったり僕と言ったりして、「――そう言われると、自分でも少しオカしいと思う時もあるんだが」 != 「しっかりしろよ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「しっかりしろよ。 != ゴロちゃん。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ゴロちゃん。 != どうしたんだい。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ゴロちゃんは歯をむき出して、今度ははっきり笑って、 != 「――ゴリラ」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「倉さんの二の舞なんで。 != テヘッ」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: そしてそのせいか、――末すぼまりのとっくりズボンの、見るからに何か心もとない足もとを、よろよろとさせるのだった。 != 「ゴロちゃん。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ……」思わず私は叫ぶように言うと、 != 「それなんで」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「気がついて見ると、驚くなかれ、なんにもないんだ。 != そしてドロン」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「おかしいかな」小首を傾げるのに、 != 「おかしいよ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「みんなが、ゴロちゃんのことをオカしいと言うのは、鮎ちゃんがドロンしてから?それともその前から……?」 != 「ドロンしてからですよ」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 盃形に丸めた指を口に持って行って、 != 「クイクイとね」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 私は、別れたあとでも、精神的|眩暈からしばらくは立ち直ることができなかった。 != 「ゴロちゃんはどうかしている」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「誤解?」ドサ貫が三方白の眼を私に注ぐのに、 != 「うん」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: やめて、歩き出したが、公園劇場の前へくると、 != 「では、ここで……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: (一日が一の酉で、十三日が二の酉で、――)二十四日の晩に私は「惚太郎」でお座敷の仕事の帰りだという美佐子と会った。 != 「やになっちゃうわ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 美佐子は眼のふちを赤くして、だるそうに鉄板の前に坐った。 != 「ミーちゃんは、それで、サービスしてやったの」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 側で子供が、もう夜も遅いのに玩具のタンクでひとりでおとなしく遊んでいる。 != 「ミーちゃん。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「ミーちゃん。 != ……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「――これからは、そういう時、ミーちゃん、はっきり断わらなきゃ駄目よ。 != いいこと。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: それは柔和な微笑ではあったが、私は私の胸を鋭く貫くもののあるのを感じた。 != 「そりゃねえ」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: だから似たようなもんだと、そんなお客は思ってるんでしょう。 != でも……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 手袋をはめない手が、外の寒気で赤くなっているのを台の上にベタリとついて、 != 「ごめんなさいね。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「ごめんなさいね。 != ――あたし……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ――あたし……」 != 「あやまることなんかないわよ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 苦しそうね」 != 「ミーちゃん。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: それまで黙っていた惚太郎が不意に言った。 != 「すみません」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「あれ、一組十銭よ」と美佐子が言った。 != 「――え?」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「一晩借りるのが十銭」 != 「――なるほど」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「――楽屋泊りも、今思い出すと楽しかった」 != 「…………」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「熊手には入船と出船があるんですッてね」 != 「ふーん」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「芸者家なんかは出船、料理屋なんかは入船……」 != 「――なるほど」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ――美佐子君たちは、ところで、どっちかな」 != しまった。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: そこで私は、 != 「そうだ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ぶっきら棒な調子だが、その眼にはなまめいた色が輝いていた。 != 「うん、どうするかな」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「あたし、倉橋さんにちょっと話があるの」 != 「さあ……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 何か滑稽な言葉だけにかえって凄味をはらんで「僕はまじめに脅迫します」 != 「………」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「………」 != 「ミーちゃんとかぎらない。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: だが浅草の女は大概新派悲劇の主人公のようなものを持っているんで。 != そりゃ、ひどいのもいる。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「でもその馬鹿なところがいいんじゃないですか」 != 「それはそうだが……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 私にわかるのは、美佐子に彼がどうやら夢中だということ。 != そのため……?, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: なぜ美佐子は私をとっちめようとしたのか。 != ……, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「K劇場の小柳雅子」 != 「マーちゃん?」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「マーちゃん?」 != 「うん、マーちゃん」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「言わない。 != ……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「おくびにも出さないんだ」 != 「…………」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「君、かついでるわけじゃあるまいね」 != 「そんな……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: と、その時、被官稲荷の方に眼をやったドサ貫が、 != 「――おや」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 私もそっちを見て、おやと眼を張って、 != 「あれは、サーちゃんじゃないかな」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「あれは、サーちゃんじゃないかな」 != 「――そうだ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「あの子は、――K劇場に瓶口というのがいるでしょう。 != それとできているんだが……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 小説家がバカバカしくてそらぞらしくてあさましくて書けないようなことを平然と展開してみせる現実の図太さ、そのヌケヌケとした現実の恐ろしさに、私の脆弱な小説家的な神経はむざんに叩きのめされた。 != そうだ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「ズー鍋一丁、カワ鍋一丁」 != 「はアい。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「それからお銚子だ」 != 「はアい。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: そのどぎつさは、浅草の小屋のどぎつい芸風をちょっと偲ばせる。 != 「なんにもしないで、どうもすみません」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「おい、お銚子は」 != 「はい、ただいま」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 酒が来ると、さあさあと性急に私につぎ、つぎ終るや間髪を入れず、すでに左手に用意していた盃にカチリと銚子を当てる。 != チュウとすすって、, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 寝床に戻ったが、もう眠られない。 != ――おい、ズー、どうした」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ――おい、ズー、どうした」 != 「はい、ただいま」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: どうです、この話は」 != 「ふうむ」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「かまわんじゃないですか」 != 「しかし……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「行ってみようじゃないですか」 != 「さあ……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「やあ」と、私は口に出して言って、末弘の傍に行って、 != 「どうですか」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: とあるのが、私の酔眼にはそこだけ特に大きく映った。 != 「いやどうも、ひょうたんぼっくりこですわ」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 漫才では先輩のぽんたんが、齢は下でも兎家ひょうたんこと末弘春吉の兄貴分になった。 != 「どうですか」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「どうですか、舞台の方は」 != 「や、まあ、おかげさまで」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 末弘は、いや兎家ひょうたんは早くも漫才屋の仕事を身につけた感じの滑稽な揉み手をして、 != 「なッかなッかムツカシイあるですわ。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 笑ってくんねえンで」 != 「ふうむ」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「あれは天中軒トコトンさんのおかみさんで……」 != 「ほう」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 日に当らないせいか、それとも、……。 != いや。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: いや。 != そんなことはどうでもいい。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 盆栽の趣味を枯淡とかなんとか言うのはうそですね。 != むごたらしいもんじゃないですか」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 朝野は、うんとうなずいて、私の顔をマジマジとみつめる。 != 「なんですか」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: もともと行こうと言うと、いやだとは言っていたが……」これまではつぶやくように言って「――もとと今と、どうなんですか、同じ心境からなんですか。 != それとも……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: …………………… != *, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「ミーちゃんにお会いで?」 != 「――いや」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「マーちゃんにお会いですか」 != 「――いや」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「但馬さんが来るそうですよ」 != 「ほう」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: そこのショウに入ることになったんです」 != 「それはよかった」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: もう咳はしていないが、切なそうに肩で息をしている。 != 「どうした」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「大丈夫?」肩に手をかけようとした時、私はドサ貫の前の溝に、血のようなものがべとりと吐き出されているのを見た。 != 「……!」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: だが美佐子の方は何か弱々しいドサ貫を庇うような、姉のような気持だったらしい。 != ……, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: …… != *, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「どうしたも、こうしたも、――困るなア、こういう時にはちゃんと浅草にいてくれなくちゃ」 != 「どうもすみません。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 兎家ひょうたんなどという奇妙な名前の漫才芸人になったはいいが、お客を笑わせようとして、笑わすことができないで、自分ひとりでヒェッヘッヘッと笑っているのではないか。 != 「ねえ、どうしたもんですかね」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 吐き出すように言う。 != 「サーちゃんは?」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「サーちゃんは残った」 != 「ふうん」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 低い小さなテーブルがずらりと並んだ部屋の隅に、私の親しい文筆の友人が二人ぼそッと坐っているきりだった。 != 「どうしたもんかね。, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 冷たく突っ放すように言う。 != 「どうしよう」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ――倉橋君は案外顔がきかんのですな」 != 「……?」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: この朝野の言葉はもっともだった。 != 「では、はじめますかな」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ――嶺美佐子は、しかし倉橋君に、――嶺美佐子の方からどうやら惚れたらしいですね」 != 「……………」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「そうとは言わないが」 != 「でもそんなようなことを……?」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「でも、倉橋君はお酉さまの晩に吉原でもって、嶺美佐子と大分シンネコだったというじゃないですか」 != 「……」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 朝野の言葉を耳にして、美佐子のことを朝野が自分の創作だと言うだけにかえって創作的うそでなくて事実のように感じられて、ふとそう思うのだったが、 != (――まさか), file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: その時、 != 「――ちわ」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「一丁上り!」そう言うと、パッと開いた左手を機械人形のように下にギクリと翻し、その上に右手をやって団子をこねるようなまねをして、 != 「――イケませんね」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: それまでは、お通夜のような重苦しい空気が部屋に淀んでいたのだが、彼の出現でそんな空気はたちまち一掃された。 != 「ゴロちゃん!」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: ゴロちゃんはとっくりズボンの足をからませるような歩き方で私の側へ来て「――倉さんに会いたくてねエ」 != 「ありがとう」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 「全くの驚き。 != チクオンキ」, file: 高見順/如何なる星の下に/ikanaru.txt
Error: 或る雑誌の座談会が、此の島金で催されて、何十年ぶりかで行った。 != なつかしかった。, file: 古川緑波/牛鍋からすき焼へ/gyunabekara.txt
Error: ナマに、胡椒をかけて来ること、葱の切り方、すべて京都三島亭あたりのやり方なり。 != ……, file: 古川緑波/牛鍋からすき焼へ/gyunabekara.txt
Error: 昂奮する程の味ではなかったが、あっさりしているから、いくらでも食えた。 != 「えらいもんやなあ。, file: 古川緑波/牛鍋からすき焼へ/gyunabekara.txt
Error: 「そういう事もありませんが、なにしろ不慮の災難だからあきらめる != よりいたしかたがありませんよ……」, file: 国木田独歩/春の鳥/haruno.txt
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